● 海草藻場を活用した植物プランクトンの増殖抑制
アマモのような海草場は日本をはじめ多くの国の沿岸域で発達しています。近年海草場の減少が起こっていますが、富栄養化の解消に伴い、透明度が回復し、海草場の自然回復が期待されています。海草場の回復あるいは人工的な海草場の創出は栄養塩の競合を通じて植物プランクトンの増殖を抑制する効果が期待されますが、その定量的な評価はできていません。本研究では北部広島湾を対象海域として、富栄養化海域における人為的な栄養塩負荷削減によってどこまで透明度が回復し、それによって海草場の回復がどの程度見込めるのかについて明らかにしました。また、海草場の回復や造成による植物プランクトンの増殖抑制効果を見積もりました。
河川経由の懸濁物質の流入や底質の巻き上りがある広島湾沿岸域では植物プランクトン濃度が比較的高いにも関わらず、その影響による透明度低下は限定的であり、富栄養化の解消に伴う植物プランクトン濃度低下による透明度回復はほとんど期待できないことがわかりました。光環境から推定したこの海域におけるアマモの生息可能水域は373 haと見積もられ、そのうち現在アマモが生育している海域は100 haに過ぎないことが明らかとなりました。一方で、富栄養化の解消に伴う植物プランクトン減少、それによる透明度回復で増加するアマモの生育可能範囲の拡大はわずか36 haとなりました。
ここでアマモ場回復、創出のインパクトを明らかにするために、現在100 haから最大の373 haまでアマモ場が回復した場合に沿岸域を中心としたChl.a濃度(植物プランクトン量の指標)はどの程度抑制されるかについてモデル計算を行いました。その結果、5月~7月の4.0-7.0 μg/L のChl.a濃度を1.0-3.0 μg/L 減少させることがわかりました。しかし、その効果は月とともに減少し、8月、9月では大きな減少は見込めません。以上のように、アマモは沿岸の限られた海域にしか生育できませんが、それでも栄養塩の競合を通じて赤潮の発生等で問題となっている植物プランクトンの増殖を春季を中心に抑制する機能を有していることがわかりました。
● 生物指数M-AMBIによる底質評価
底生生物(ベントス)は底質環境に大きく依存して生息しており、自然・人為的撹乱の影響を強く受けますので、底質環境の健全性を評価する上でとても良い指標となります。ベントスを用いた生物指数にも様々ありますが、本研究では、特定の環境状態を反映するよう個々の種の指標性に基づいて重み付けをし、ある場所における種組成から計算される生物指数であるAMBI(Borja et al. 2000)およびM-AMBI(Muxika et al. 2007)を評価に用いました。日本の代表的な閉鎖性海域である瀬戸内海を対象に解析を実施した結果、固有種も多く存在する日本沿岸海域においても本指数が適用可能であることがわかりました。また、計算されたM-AMBI値は底質の物理化学的特性項目とよく対応しており、底質特性をよく反映した生物指数であることが確認できました。
●気候変動に伴う温暖化が瀬戸内海漁業環境へ及ぼす影響評価
気候変動に伴い世界的に海水温が上昇傾向にあり、瀬戸内海でも1970年代から2000年代の約30年の間に年平均値で0.7~0.8℃の海水温上昇が確認されています。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における将来の気候変動予測結果に基づき、瀬戸内海の将来の水温変化が予測された最新のデータでは、瀬戸内海沿岸では年平均海面水温において、21世紀中頃までに0.5~1.3℃の上昇が予測され、21世紀末では温暖化の緩和策がもっとも効果的になされたシナリオ(RCP2.6)でも0.9~1.7℃、温暖化対策が全くなされなかったシナリオ(RCP8.5)では3.4~4.1℃も水温が上昇すると予想されています。このような海水温上昇が瀬戸内海の漁業環境にどのような影響を及ぼしうるか影響評価に取り組んできました。その取り組みにおいてこれまでに、(1)瀬戸内海の主要な養殖対象であり、養殖時期が海水温の影響を大きくうけることの知られる、カキ・ノリ・ワカメの養殖適期の変化(2)ノリやワカメ、そして藻場の食害魚として深刻な影響を及ぼしうるアイゴ・イスズミ・ブダイ等暖海性の藻類食魚の分布拡大(3)瀬戸内の春の風物詩としても有名なイカナゴの生存可能性や生活史に及ぼす影響に関して、環境DNAメタバーコーディングのような新たな手法を活用しつつ野外観測・実験・文献調査などから知見を集積するとともに、モデルシミュレーションなどから解析を進めています。得られた成果は、環境省地域適応コンソーシアム事業気候変動適応広域協議会の事業成果として公開され、今後の気候変動に対しどのように我々の生活が適応していくべきか検討する基盤知見として活用されています。
● オゾンを用いた汚泥減容化プロセスにおける汚泥減容化指標としての活性汚泥フロック中の細菌の死滅率
オゾンを用いた汚泥減容化プロセスに必要なオゾン量を評価・決定するために、汚泥中の細菌の死滅率を求める定量分析手法を開発しました。 蛍光色素のSYTO9とヨウ化プロピジウムを、それぞれ生細胞と死細胞の染色剤として使用しました。 この研究で開発された死滅率を使用することで、さまざまなオゾン供給量における余剰汚泥の減容化率を予測できました。死滅率は、余剰汚泥削減の適切な指標であることが証明されました。